「きまぐれテンプテーション」 考察・感想

久々のアタリなので書きます。

 

≫初めに

後述の出典作品を知らなくても十分に楽しめますが、もう一入あれば…という方にはぜひ目を通していただきたいのです。

終始ネタバレだらけ。読む際はくれぐれも留意の上でどうぞ。

 

≫キャラ紹介

とりあえずアンネだけ。

 

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アンネリーゼ

メインヒロイン。

また、アンネの元となったであろうアンネリーゼ・ミシェル氏は実在した人物。悪魔祓いの儀式の末に斃死。

なおアンネが事件の真の黒幕であることは一人称が不安定とか芳香剤のくだりによって物語の割と早い段階で判明する。

 

≫推察

で、ここからが本題。誰も一向に触れてなかったので。本作ですが、恐らくは

ジョージ・オーウェル1984年』
村上春樹1Q84

の、特に後者のオマージュが多々あります。

まずは1984年から見ていきたいと思います。

 

1984年』

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この名前を上書きする〜のくだり等は

[二重思考]でしょうか。

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顕著な例を挙げるとするなら、みりあの説得に失敗すると、教典の教えに完全に飲み込まれてしまい、それまで教えの偽善に苛まれていた本来の彼女の人格は完全に失われてしまいます。以後はマザーの教えを心から信じる、サリィの僕に。所謂完堕です。 この描写は1984年の真実管理による精神支配に通じるものがあります。言葉を変えれば正しく「脳味噌の纏足のようなもの

また本作の舞台である曰く付きのマンションは代理人によって洗脳(教典、名前の上書き)、監視、統制(監禁)が徹底されており、流石に全体主義とまではいかないものの、ある種ディストピアの縮図とも言えます。

 

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[101号室]

1984年において作品のテーマの象徴とも言える場所。これも強ち無関係なものではないかもなぁと。本作のクライマックスにおいて、この場面から入るBADではアンネの相棒ではなく「家族」に成ってしまいますし。

 

1Q84

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[儀式]

儀式をすることで1Q84では処女懐胎をするのだが、本作では魂が臓物を喰らう(器を得る)ことにより天使が生まれ落ちたとのこと。

 

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[深田保]

1Q84代理人。しかし、サリィさんは深田リーダーとは比べるまでもなく小物オブ小物であった。

 

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[証人会]

冊子を配って教義を説いて神を尊称で呼ばせる。冊子の内容は1Q84は終末論。こちらの教えは七つの大罪

 

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『産んで欲しい』

生まれ変わることで呪いを断ち切る。その具体的な方法こそ作中では明示されていないのですが、ここまでは1Q84における「空気さなぎ」の特性そのままですね。

ただこのオマージュ全開の場面については好ましくない、と考える人の方も一定数いるかと思うので、こちらについては前述の様な推察に加えて一応自分なりの私見も付け加えておきます。

というのも、オマージュ元の1Q84ですら「産む」役割を担うとされる存在が、概念のみという非常に曖昧なものですが、文学界隈では「私は好きにした。君たちも好きにしたまえ。」が考察の余地として罷り通る不文律があるため全く無問題なのです。

ところがそれ以外の畑ではどうでしょうか。この答えが設けられていない展開というのが所謂投げっぱなしと看做され、好ましくないものとされる風潮があります。(CERO:Dという、とりわけ遮蔽性に優れた斯界に限ればそんなことないのかもしれませんが)

ライターさんからすればきっと元ネタを知ってる人にクスッと来て欲しい場面だとは思うのです。が、本作に1Q84のオマージュが含まれていることを知らない人からすれば、畢竟するにこのオチってただのデウス・エクス・マキナでは…?ということでBadな評価を押されかねない気がします。Trueエンドなのに。純愛エンドだよ

…失礼しました。ですが、もし作品が大ヒットした場合などは事情が違ってきます。その反響に応じてプレイ人口も指数関数的に伸びるわけですから、更にその中には『これは面白いエロゲ』という前提で古参の方或いは見識が広い方もそれなりに流入してしまうのです。それ故にやはりロープライスといえど、ある作品のインスパイアではなくオマージュ色が非常に強いという、拭いきれない懸念事項を持つ本作を一部の私見を前言撤回して「杞憂だった、きまテンは神。」と断言するにはもう暫く様子を見る必要がありそうです。

 

≫まとめ

きまテンを再度プレイするにあたってはひとまず村上春樹著の1Q84の全容をざっと抑えておくと、本作の世界観をまた違った形で楽しむことができるかと思います。

J・オーウェル著の1984年の方は読まなくていいのか?──こちらをあえて挙げない理由ですが、本作で見つかるオマージュのほとんどが1Q84の情報で、1984年の方はほんの僅かしかありません。そもそも1Q841984年にインスパイアされた作品だった為に『101号室』という用語は、なし崩し的にパクっと拝借されてしまったものと認識するのが正しいでしょう。

結果として1Q84側からアプローチしていくことで大抵のつっかかりは解消できたので。

それと一応補足しておきますと『二重思考』の見解は、完全にこちらの憶測によるもののみです。

 

≫終わりにちょっと余談

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なんと本作、続編が来るかもしれないらしい。というわけでクーリィ君ちゃんが続編でもしっかり登場してくれるよう、ここで推しておこうと思います。

どうか逝かないで!

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(可愛い)

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(可愛い)